2013年3月7日木曜日

TPP交渉ウォッチ Vol.2 ステークホルダー会議その1


 34日から開かれているTPP16回交渉会合に参加中だ。日本はまだ参加国ではないため、私自身は米国のNGOパブリックシチズンのメンバーとしての参加である。交渉会合では、公式の交渉会合とは別に、1日だけステークホルダー会議と呼ばれる会議が持たれる。ステークホルダー(利害関係者)には、TPP交渉によって何らかの利益を得る人たちと、逆に懸念や悪影響をもたらされる人たちの両方が本来含まれる。ステークホルダー会議では、それらの人びとが自らの関心事項や訴えたい内容を、各国の交渉担当官にプレゼンテーションしたり、それぞれと関係をつくり日常的なロビイングのルートをつくるための場だ。NGO側としては、当然、様々な面での悪影響が心配されるTPPの内容について、市民社会からのアピールをする場となる。

 交渉会合については、さまざまな情報が飛びかっていることもあり、後日まとまった報告をする予定だが、まずは速報的にいくつかの情報を発信したい。

 今回のシンガポールの交渉会合では、約300のステークホルダーが参加。その内訳は、8割が企業、特にナイキやタイムワーナー、グーグル、カーギルなど米国の大企業だ。「TPPを推進する米国企業連合」も1団体として登録していた。また現地シンガポールの縫製・アパレル企業なども参加。これらのステークホルダーは、いうまでもなくTPPによってもたらされる企業の利益を双方にアピールしあい、会合の間の自由な時間を使って、さらに詳細な会話をする。

 ステークホルダー会議の構造は、以下の2種類となっている。

リスト1 
 まず、11:0014:00までの間に、広いレセプションルームにて行なわれる「テーブル(ブース)出展」だ。ここには約67団体・企業が登録していた(リスト1参照)。机1台分ほどのスペースが割り当てられ、上記の時間の間、交渉官やステークホルダーは自由に立ち寄り、会話ができる。どのブースも活動案内やTPPに関する自らのスタンスなどが書かれた書類やパンフレットを並べ、やってくる人たちへアピールをする。言ってみれば関係づくりの最初の一歩である。

 もう一つは、「プレゼンテーション」だ。同じく11:0014:00までの間、50人ほどが入る4つの部屋で、各団体・企業が15分ずつの時間を割り当てられ、プレゼンテーションを行う。プレゼンを行ったのは42団体・企業(リスト2参照)。やはり企業がほとんどである。


リスト2
 私はいくつかの企業のプレゼンテーションに参加した。例えばタイム・ワーナー(ディズニーの商品を開発・販売する)社のプレゼンテーションでは、15分の発表時間の7分ほど、ビデオを見せられた。その内容は、ディズニーが世界
各地の人びとに与える楽しい夢や、充実したコンテンツなどがいかに素晴らしいものか、に終始しており、驚くべき内容だった。また知的所有権の保護についてもアピールされていた。もちろん、15分という未時間時間でのプレゼンテーションなので、この場はきっかけにすぎない。プレゼン後、彼らはさまざまな人たちと名刺交換をし、さらに詳しい話を非公式にしていく。まさに商談である。
 また米国の「自動車産業とTPP」というプレゼンテーションでは、フォード社のメンバーがプレゼンを行った。まだ日本は参加国ではないにもかかわらず、日本のトヨタ、ホンダなどの社名が具体的にあげられ、米国の自動車産業は「日本問題」をクリアすれば発展をしていく、という内容が語られた。これはまさしく、日本が参加するための条件として米国がいう「自動車問題」をクリアするという意図を表す重要な根拠であるといえる。

 一方、NGO側も負けてはいない。

 マレーシアのエイズ患者支援団体は、知的所有権が大企業に有利に伸ばされることでジェネリック薬が患者に届かなくなるという内容を発表した。またTWN(第三世界ネットワーク)は、労働や環境分野におけるTPPの危険性をアピール。交渉参加国はどこも、TPPが自国の国民にどれほどの悪影響を及ぼすのか、ということについて十分に想定できていない。当初は、これらNGO側の懸念にどこまで各国の交渉官が関心を持つのだろうか、と疑問だったが、実際には思った以上の関心が寄せられていたように感じる。これらNGOの主張は別途紹介したいと思う。

 14:00に終了した後、各国の交渉官によるステークホルダーへの記者会見が行なわれた。記者会見といっているが、要するにステークホルダーからの質疑に答える場である。この内容は別途お伝えしたい。


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