2013年6月29日土曜日

日本政府によるTPP交渉官(各分野)の発表内容

日本政府は本日、TPP交渉参加を前提に、すでに決まっていた首席交渉官のもとに、各分野の交渉官を発表した。マスメディアでは首席交渉官代理の大江氏の名前は発表されていますが、各交渉官の氏名までは報道されていないようですが私は独自ルートで詳細入手しました。たぶんどこよりも早いリーク情報だと思います(間違いや後の修正があればすぐいたしますが、現時点でのご参考に)。

首席交渉官 鶴岡公二(外務審議官)
首席交渉官代理 大江博(外務)

以下、交渉官(7月1日発令)
・上原研也(外務)は「協力と分野横断的事項」
・牛草哲朗(農水)は「環境」
・大塚和也(外務)は「競争政策」
・加藤淳(外務)は「制度的事項と紛争解決」
・金森敬(財務)は「貿易円滑化」
・黒田淳一郎(経産)は「TBT」
・杉原大作(外務)は「投資」
・田公和幸(外務)は「政府調達」
・辻山弥生(農水)は「SPS」
・原田浩一(厚労)は「労働」
・林禎二(外務)は「物品の市場アクセス」
・樋口恵一(外務)は「原産地規則」
・彦田尚毅(外務)は「知的財産」
・菱田光洋(総務)は「電気通信」
・股野元貞(外務)は「越境サービスと一時的入国」
・水野政義(農水)は「物品の農業の市場アクセス」
・吉澤隆(経産)は「電子商取引」
・渡部康人(金融庁)は「金融サービス」
・あと1人は経産省で人選中で「鉱業の市場アクセス」

2013年6月12日水曜日

米国企業による日本へのすさまじい要求―TPP米国パブリックコメントを読み解く①


 米国政府は57~69日の間、来たるべき日本のTPP交渉参加に向けて、米国内向けのパブリックコメント(意見募集)を行なった。設定された問いは「日本のTPP参加について」そのものである。9日の締切前から、寄せられたコメントは少しずつ公表されてきたが、締め切り直後の時点で確認できたのは64件。業界別に見れば農業・食品関連業界が多かった。

 私はここに寄せられた各企業や業界団体からのコメント、つまり「日本に対する要求」を読み、身の毛がよだつ思いがした。ここまで要求するか、といわんばかりの内容がズラリと並んでいるからだ。その中には、日本が長年積み上げ構築してきた独自基準や制度、また文化・社会的背景に裏打ちされているものも含まれる。消費者運動や住民運動の努力によって勝ち取ってきた内容もある。しかし米国企業は、「そんなものは自分たち企業・業界団体の利潤獲得のためには無意味であり『障壁』であり、有害だ」と主張しているのだ。これほどに屈辱的なことがあるだろうか。

もちろんこのような要求自体は、今に始まったことではない。だがこれまでと異なるのは、明らかに、日本のTPP交渉参加は「秒読み段階」に入ってしまったという点だ。日本市場を狙う企業の「意欲」もますますヒートアップしているように思えてならない。まさに「今まで離れていた獲物が、今はもう眼の前にいる」という状態なのだ。


★日本の「聖域」などは関係ない 相次ぐ関税撤廃要求

 まず、米国の主要農産物・食品輸出業界団体の要求内容をピックアップする。

 ●米国食肉輸出協会:関税撤廃
 ●全米豚肉生産者協会:差額関税制度の廃止
 ●全国生乳生産者連盟・米国乳製品輸出協議会:チーズなど乳製品の関税撤廃、食品添加物の認証手続きの迅速化、他国で使用されているが日本は認めていない添加物の使用拡大
 ●米国ジャガイモ貿易同盟:残留農薬基準の認証手続きの迅速化
 

 豚肉、乳製品は日本政府が「聖域5品目」として掲げた産品である。しかし米国の輸出業界にとってはそのような「聖域」などはまったく関係ない。徹底的な関税撤廃をひたすらに要求していることがわかる。

 また日本の「安全・安心な食」を支える重要な基準・制度である食品添加物の規制や、残留農薬基準もやり玉に挙げている。それらをすべて取っ払って、米国産の農産品を輸入しろ、と言っているのだ。これらは関税そのものではなく、いわゆる「非関税障壁」の部分にあたるが、当然、今後進められるであろう大問題の「日米並行協議」におけるテーマに挙げることが前提とされていると見られる。

★食糧メジャー・カーギルの主張

 農業・食品分野での個別企業では、カーギルもコメントを寄せている。

  同社は、まず日本が2月の日米共同宣言にて、日本が「すべての品目を交渉テーブルに乗せると約束したこと」、「包括的でハイレベルの合意を達成するために参加すること」をわざわざ明記した上で、「日本のTPP参加を歓迎する」としている。また長年の課題であった「日本の非関税障壁」問題も解決させるという趣旨も書かれている。

 同社にとって、日本の参加は、日本の市場進出だけにとどまらず、「アジア太平洋地域への自社生産物・製品のさらなる展開のステップ」として位置づけられている。同社はすでに66か国で142万人の社員を雇用し、130か国以上に農産品や原材料、サービスなどを提供しており、TPP参加国のオーストラリア、ペルー、シンガポール、ベトナム、マレーシア、カナダ、メキシコ、そして日本とほとんどの国へ投資を行なっている巨大な多国籍企業である。

「日本は長らく、世界でも最も閉鎖的な市場であったが、TPPによって開放される。それは日本の農業セクターの国際市場における競争力を高めることになる。それによって日本の農業セクターはより『市場主義的な農業』へとシフトすることができ、包括的で持続的な経済成長への道となる」。

 当然、同社は日本の関税を攻撃している。また関連する事項として、SPS(植物検疫)やTBT(貿易の技術的障害)についてもTPP交渉の中で解決しなければならない、という。特に食品に関する「非科学的な根拠に基づく規制・基準」はなくせ、との主張は重大だ。各国で定めている基準が不一致であれば輸出入に時間もかかり、コストも生じる。だからいわゆる「内外規制の一致」をはかれ、と言っているのである。この主張を米国基準のまま日本に導入したとしたら、食品表示や添加物、残留農薬基準など、日本が長らく構築してきた国内基準やルールがすべて消失させられてしまう。
 同社は、日本の参加は「自社の利益、米国経済の発展に貢献する」と、臆面もなく展開する。しかもそれが日本はもちろんアジア太平洋地域での食糧の安全保障に有効であるとまでいうのだから、言葉も出てこない。

★米国最大級の外食チェーン「ヤム!」社の主張

「ヤム!インターナショナル」は、ケンタッキー・フライドチキン、ピザハット、タコベルを傘下に持つ全米最大級の外食チェーン持株会社だ。私はつい先日、ツイッターで、米国のパブコメに寄せられた意見のうち、「ヤム!インターナショナル」社の例を発信した。ここでも改めて紹介したい。

同社はすでに日本に約1500店舗を有しているが、今回のパブコメで挙げた日本の加工食品貿易の「障壁」を除去すれば日本の店舗を「大きく拡張できる」と主張している。

 ではヤム!社がいう日本の「障壁」とは何か。生チーズ、加工チーズ、細切りモッツァレラチーズ、繊維状チーズおよびその他の加工チーズの関税が「高い」という。「チーズはピザの生産コストの大きな比率をなし同社と顧客にとり重大なコストになっている」から、関税を撤廃しろと。

チーズだけでない。冷凍未加工部分鶏肉、未加工冷凍鶏もも肉、その他部分肉、冷凍ポテトフライ、調理済スイートコーンも「日本の関税は高いから撤廃せよ」。これらの関税が撤廃されれば米国生産者からヤム!社日本レストランへの製品輸出は数千万ドル増えると、同社は見積もっている。

さらにヤム!社の要求は関税撤廃にとどまらない。「日本に、月齢その他の制限なしにあらゆる米国産牛肉の輸入を認めるようさらに圧力をかけるよう要請する」、「日本には食品添加物について『不透明な規制』があり出荷を遅らせている」等々。とにかく「米国生産車・業界・企業がいかにビジネス拡大できるか」が徹底的に述べられている。 

このように凌辱的で、倒錯した主張があるのだろうか、とつくづく疑問と怒りを感じる。

チーズや冷凍ポテトフライ、鶏肉、調理済スィートコーンの日本の関税が撤廃されてもケンタッキーフライドチキンやピザハットの値段は1円も安くならないし、従業員の賃金は1円も上がらないだろう。関税撤廃分で生じた仕入れコスト減少は全て米国企業の利益となるのだから。

日本のTPP参加は、すなわち日本農業の破壊を意味する。ごく一部の高付加価値・輸出型農業は生き残り利潤を上げるかもしれないが、しかしそれは国家の食糧主権を守り国内の人びとの胃袋を満たす本来の「農業」ではない。しかも日本の農業を破壊する主体はまさにカーギルのような食物メジャーそのものである。カーギルはじめ米国企業は徹底的に日本に安い農産品を売りつけながら、日本の農業を破壊しながら、「TPPで日本の農業は国際競争力をつけられる」というのだ。そもそも、日本の農業が国際的に競争力をつけた場合に、困るのは米国企業自身ではないのか。

とにかく、米国企業にとっては「日本の市場でモノを売ること」が重要であり理屈はどうでもよい、と理解するしかない。

 まさにTPP交渉参加が秒読みといわれる現在、日本は相変わらず要求されるだけで、何かを要求することなどできていない。私はもちろん日本のTPP交渉参加そしてTPP協定自体に反対であるが、このすさまじい米国企業の要求を前に、日本政府はどのような方針で、具体的に何を獲得するために交渉に臨もうとしているのか。少なくとも、ここで紹介した企業が具体的に要求しているようなレベルと同等の要求を日本が他国(特に米国)にしているのであれば、まだ「交渉」の体をなす可能性もある。しかし政府や日本の大企業、推進派からは、「TPPで勝ち取るもの」の具体的項目と試算は出てこない。仮に「TPPで経済成長」というのならせめてこれと同等の数値を出すのが筋だろうと改めて思う。

 私はいま、TPPを知り、語る上で必要なのは、「事実」をできるだけ多くの人の目にさらすことだと考えている。極度の秘密性を持つTPP交渉の本当の姿を、私を含め誰も知らない。条文テキストは政府も読んでいないのだ。だからこそ、誰が、何を、どのような目的を持って実際に語っているのか、小さな「事実」であっても、そこから本質が見えてくることも多い。今回紹介した米国のパブコメも、そうした「事実」の一つである。米国企業のすさまじい要求と、むき出しの利潤追求の姿を見て、「それでもTPPに入りたい」と思えるだろうか。メディアの方にもぜひこうした「事実」の報道を粘り強くやっていただきたいと切に願う。
 

 今回は米国のパブリックコメント結果から、主に農業・食品産業分野について紹介したが、引き続き保険や自動車業界、流通などの分野での米国企業・業界団体の「要求」を随時紹介していきたい。