2013年12月9日月曜日

反対する者を「隔離」するためのTPP交渉での強引な戦術

 TPP閣僚会合が開催されているシンガポールにいるNZのジェーン・ケルシー教授から重要な情報が届いた。日本のTVではまったく「自然に」報じられているが、会場ではテーマごとに数か国だけが集まり協議を行なっている。参加国は12か国であるにもかかわらず、である。
 
 彼女からの緊急メッセージの全文(英語)は下記のサイトから読むことができる。
 Heavy-handed tactics in TPPA talks aim to isolate dissenters(反対する者を「隔離」するためのTPP交渉での強引な戦術)
 http://www.itsourfuture.org.nz/heavy-handed-tactics-in-tppa-talks-aim-to-isolate-dissenters/

 このやり方は「グリーン・ルーム」と呼ばれWTO交渉で実施されてきた。要は事務局長などが議題ごとに設定したインフォーマル会議であり、ここに恣意的に選ばれた代表だけが参加し決めていくという極めて非民主的な運営方法だ。この方法は、米国をはじめとする先進国の主導でなされ、途上国はほんの一部しか参加できず、大きな批判の対象となった。その悪評高き「グリーン・ルーム」が、現在シンガポールTPP閣僚会合でもやられている、というのだ。

 ケルシー氏によれば「どのテーマにどの国を呼ぶかの選別・決定には米国がかなり関与している」という。例えば知的財産分野では米国と対立する5か国(NZ,マレーシア、チリ、シンガポール、カナダ)のうち「たった1か国」だけが「グリーン・ルーム」に呼ばれている。これもWTO交渉でも見られた構図で、米国にとっては反対する国々が多くいれば分が悪い。しかしまったく呼ばないのも批判を浴びる。だから反対勢力の国々の中から1~2か国だけを参加させ、反対する国を孤立させながらも、形式的には反対派とも合意したとしながら進めていくのである。

 このような「グリーン・ルーム」形式は、決定プロセスや協議内容も含めてもちろん「秘密」である。そしてそのこと自体が大問題だ(日本のメディアは「グループごとに協議しています」などと能天気に報じるが)。すべての分野において全参加国が同じテーブルについて協議しない限り、交渉の正当性は認められない。

 日本政府は、こうしたやり方自体を批判し、グリーン・ルームをやめさせるべきである。

2013年12月8日日曜日

秘密保護法案の可決と、秘密の貿易交渉TPP

  12月6日、特定秘密保護法案が可決してしまった。
 国会周辺の大規模な抗議デモ、全国各地に広がる反対の声、野党の批判、そして政権与党・自民党内からも慎重論が出ている中、安倍政権は一方的な強行採決に踏み切った。この暴挙は歴史的にも決して忘れてはならない。最大の怒りをもって抗議したい。

 私はこの間、秘密保護法案反対の立場から、集会やメディアで発言してきた。その際、ほとんどがTPP交渉に反対という文脈で語ってきた。つまり、TPP交渉こそが、「何が秘密かも秘密」の貿易交渉であり、その本質において秘密保護法とまったく似ているのである。

 すでに3年以上も重ねられてきたTPP交渉は、貿易交渉、しかも幅広い分野をカヴァーしているという点で、私たちの生活そのもの、農業や医療、雇用など社会の基盤や価値観そのものに影響を与える。にもかかわらず、完全な秘密裏で進められてきた。比べるのもおかしな話だが、貿易交渉はいわゆる安全保障や軍事機密ではなく、いってみれば単なる「貿易の話」だ。しかしそれがここまで秘密に進められる事態というのは、まさに「異常な協定・異常な交渉」である。

 なぜTPP交渉が秘密なのかはすでにさまざまなところで述べてきたが、過去のWTO交渉や各種の貿易交渉において、各国政府は交渉過程や中身を、自国の業界団体や市民に一定程度明らかにし、利害を調整しながら交渉を進めてきた。そうしなければ国内の理解も得られず、また獲得したい利益を得ることもできないからだ。

 しかしWTO交渉は暗礁に乗り上げ、ほとんど無意味化している。なぜなら、アフリカはじめとする途上国やブラジルなど新興国、そして米国など先進国の利害は徹底的に対立し、まとめようにもまとまらないからだ。その対立の背景には、各国政府の後ろに、交渉の中身を知る各国市民・業界団体の大きな声がある。米国にしてみれば、こうした声はまさに交渉を進める上での「障害」に他ならない。だからTPP交渉は、絶対に交渉内容を外にもらさない、自国の国会議員や市民にすら「秘密」にして、クローズドの部屋の中で粛々と決めてしまいたい、という意図のもと進められてきた交渉なのである。交渉そのものへの批判の声などもっての他、聞く必要も姿勢もない、それがこの交渉の姿なのである。

 これはまさに、秘密保護法の審議過程を彷彿とさせるものである。「聞きたくない批判や、異論、疑問も聞く必要はない。説明とは『相手を説得し納得してもらうもの』ではなく『説明する側が十分だと思うだけすればそれで終わり』」。これはこれまでのTPP交渉における首席交渉官のブリーフィングの場で一貫してとられてきた態度である。これも秘密保護法審議における安倍政権の態度とぴったり符号する。しかしこれは単なる偶然の一致ではない。すでにTPP交渉で敷かれてきた秘密主義が、形をやや変えて秘密保護法という姿をもって私たちの前に現れたのであり、その本質は、徹底した官僚主導と、市民の知る権利の剥奪であり、民主主義の否定である。

 秘密保護法案が可決した翌日の12月7日、シンガポールでTPP閣僚会合が始まった。この間、メディアを含め秘密保護法関連の話題が多く、正直TPP交渉については人々の意識から少し遠のいた印象がある。しかし米国は今回の交渉を「年内最大の山場」と位置付け、難航している知的財産、関税、国有企業などの分野で政治的決着をつけ、「実質合意」や「大筋合意」を宣言する案も浮上しているという。

 現実的には、いくら政治的決着といっても、米国とマレーシア・ベトナムなどの国での対立の溝は深く、また日米間でも関税交渉は遅々として進んでおらず、中身の伴った「合意」には程遠い。米国は他国に強硬な姿勢を取りたいと狙っているが、しかし同時に国内的にはTPA(貿易権限)問題で大もめである。外顔では強面を演じてみても、内心は国内でのTPA取得ができるかどうか、議会からの反発をどう抑えるかなどが気が気でならない状況である。

 私自身は、TPP交渉は早期でまとまらず、今後も交渉がある程度長期化していくと考えている。最近報道された韓国の交渉参加問題も長期化の一要因となるかもしれない。その場合、重要となるのは日本の態度である。先にウィキリークスによって暴かれた知的財産分野のテキストによれば、日本は非親告罪化に反対するなど米国とは異なる主張をしていた。私はこのリーク文書が真実だという立場に立つが、このような主張を貫き、また関税問題では国民に約束をした通り農産品5項目を守るという立場を崩さないことが重要だ。そしてそれらが実現されないのであれば、自民党自らが決定しているように、TPP交渉から脱退するべきである。

 最後に一つだけ指摘しておきたい。秘密保護法案が可決された後、こんな声をよく聞く。「この法案はひどい。でも先の選挙で自民党が圧勝した原因は私たちの側、国民の側にもある」というものだ。選挙という制度のもと正当に選ばれた政権なのだから、選挙民の私たちの側の問題だ、という。しかしTPP問題に焦点をあててみれば、果たして本当に責任は私たちにあるのだろうか? 自民党は1年前の衆院選にて「TPPには断固反対」といって農山村で多くの票を集めた。しかしその3か月後には公約を完全に破って交渉参加した。選挙民にとってはこれこそが大嘘の裏切り行為であり、嘘をついて大勝した自民党の側に責任があるはずである。

 TPP交渉はこれからも秘密裡に進められていくだろう。しかし私たちはこれからも、国内・国際のあらゆるルートを使って、交渉に関する情報を入手し、広く市民に発信していく。また政府に対しては、説明会や情報公開請求などの公式のチャネルを通じて、説明と対話の場を求めていきたいと思う。実際、これまで日本での情報公開は決して十分でなく、むしろ秘密だらけの状態である。秘密保護法が可決されてしまったこの時点から必要なのは、その状況を跳ね返し、これまでよりも市民が情報を得られるスペースを1ミリでも押し広げる取り組みである。現時点から1歩でも状況を後退させてはならない。