2014年12月22日月曜日

JA解体を望む米国の保険・医療業界-狙われるJAバンク・JA共済のマネー




衆院選が終わった。今後自民党はTPPのさらなる推進(=日本側の大幅譲歩)と、「農協改革」をこれまで以上のスピードで進めていくことが懸念される。今回はその二つに関連することを書こうと思う。
私はTPP問題に取り組むようになって以降、『日本農業新聞』を購読している。同紙はTPP反対の論陣を張り、農業以外の交渉分野についても重要な情報を発信している貴重なメディアである。20146月以降、同紙には自民党政権による「農協解体」の話題が圧倒的に多くなった。アベノミクスの重要な柱である成長戦略が打ち出された際に、この農協解体が盛り込まれたからだ。現在は政府案に対してJAが「自己改革案」をつくり提案しているという状態だ(おかげでTPPの話題が相対的に少なくなり、TPP反対のJAへの口封じという意図も感じる)。
自民党政権による「農協解体」の趣旨は、「JAは肥大化し、農業経営部門だけでなくJAバンクなど金融やJA共済などの分野まで広がっている。農業経営部門は赤字であり、コスト削減や担い手育成などしつつもっと効率的な農業経営をしなければならない。株式会社化もした方がいい」というようなものだ。驚いたのは、農水省自身が「農協の経営は、経済事業の赤字を信用事業、共済事業の収益に依存するという構造からの脱却が進んでおらず、事業ごとの収支の確立が必要」とホームページに記載していたことだ。
 これらは、TPP交渉参加以前からいわれてきた「農業悪玉論」に依拠している。「農業は非効率」であり、「グローバル化に勝ち残るためには強い農業・国際競争力ある農業」にしなければならない。要するに自己責任で勝ち組になればいい、という論理だ。
この強烈な「解体論」に、全国の農村は震撼し、怒りをあらわにしている。TPP反対運動をご一緒してきた多くの農家は、TPP反対をしながら同時にこの政府による「農協解体」にも反対をすることになり、本当に忙しく手が回らないと聞く。ここにも運動の弱体化を狙う意図が感じられる。
 しかしいったい、農協解体論は「強い農業」をひたすら叫ぶ日本政府だけの意図なのか?
 このかん、いくつかのレポートを読む中で、農協解体の裏には実は米国の金融・保険業界の意向が色濃く反映されていることが浮かび上がってきた。

★在日米国商工会議所による「JA解体」の意見書
 TPPの中で、米国の金融・保険サービスが日本の金融市場を狙っているということはすでに多くの人が指摘をしている。とりわけ「かんぽ」「JA共済」「JAバンク」がそのターゲットである。「かんぽ」や「JA共済」は世界でももっともお金が集まる保険事業であり、米国の保険会社が狙ってこないわけがない。
 在日米国商工会議所は、日本国内の様々な業種、業態に対して、「意見書」というレポートを出しその中で「提言」をしている。同所が6月に発表したレポートを見ていささか驚いた。タイトルはJAグループは、日本の農業を強化し、かつ日本の経済成長に資する形で組織改革を行うべき」。私は当初、米国内の農産品輸出企業の意向を受けた同所が、JA改革を唱えることで結果的にこれまで以上の市場開放を迫る内容かと感じた。しかしレポートを執筆した担当者は同所内の「保険委員会」「銀行・金融・キャピタル・マーケット委員会」とある。なぜ米国の金融や保険関連の専門家が「JA改革」を唱えるのか? 答えは簡単である。米国の保険・金融業界にとってJA解体の意味はすなわち「JAバンク」と「JA共済」だからである。

 ちなみに、米国商工会議所自身は、米国の企業・財界の意見を反映し他国に圧力をかける存在としては大変大きなものである。貿易交渉の現場でも圧倒的なプレゼンスを示しており、TPP交渉にも毎回のように参加している。私自身も、2013年に開催されたシンガポールでの交渉会合にて、米国商工会議所の存在感に驚いた経験がある。ホスト国であるシンガポールを差し置いて、レセプションは同所の主催で行われ、彼らが交渉国同士の交流を仕切っていた。同所の副代表のタミ・オベイ氏のTPP交渉推進の強硬発言も有名だ。その意味で、同所の意見書というのは、単なる業界団体の声やシンクタンクの意見という以上に、「米国の大企業・財界の意向の集約」と位置づけていい。またそこには日本に対する影響力や実際の圧力も含まれている、といえるものである。
 この意見書の中では、実に詳細に、JAバンクやJA共済がいかに独自の規制に守られているか、すなわち外国企業からすれば「排他的」であり「不平等」かが論じられている。他の意見書も同じだが、ここまで日本国内の制度や法律、実際の運用のあり方について議論するためには、日本側の人脈を含めた相当のブレーンやリサーチャーがいなければ無理である。
 意見書が出された日付は201464日だ。日本政府による「JA解体論」が打ち出されたのはそれから約2週間後の6月下旬。さかのぼれば5月あたりから規制改革会議では同様の議論がなされていた。要するに日本政府のJA解体と米国の保険・金融業界からのJA解体論はほぼ同時並行で進み提起されてきたわけでる。もちろんこれは「外圧」があったからそうした、という単純な話ではない。日本国内では安倍首相を筆頭に規制改革推進派が、米国では日本の保険・金融市場をターゲットにする大企業・業界団体が、それぞれの意図を持ちながら目的を同じとして進めている、と私は考える。
 さらに在日米国商工会議所は、109日にも「共済と金融庁規制下の保険会社の間に平等な競争環境の確立を」と題した意見書を提起している(保険委員会が執筆)。これは共済にターゲットを絞った、より具体的な要望をまとめたものだ。要は、現在金融庁の管轄下になく緩い規制のもとで運営されている日本の共済は「排他的」「不平等」であり、規制を取り払って外国企業にも同等の条件での競争を確保しなさい、ということだ。
 10月という時期は、TPP交渉にとっては微妙な時期だった。年内妥結はほぼ難しい見通しとなったまま、10月下旬のオーストラリア会合、11月の北京APECを迎える直前だ。またJA改革については、いわゆる「自己改革」がJA側に課され、さまざまな部署での改革が内部でなされていた時期である。
 こうした事実を、日本政府が何としてでも進めようとしているJA改革という絵に重ねてみると、また別の文脈が見えてくる。すなわち米国の金融・保険業界にとっても「JA解体」そしてそれに伴うJAバンクやJA共済の株式会社化、そしてその後の米国保険会社や銀行など金融機関の日本へのさらなる進出は自らの利益拡大のために必須である。安倍政権のJA解体はやや違う文脈で持ち出されてはいるものの、米国のこの意向が反映されている。
私自身は、JAという組織が持つ問題について、詳しく語る立場にはないしその情報も持ち合わせていないが、ここまで巨大な組織であるがゆえの機能不全や意思決定の問題などは容易に想像できるし、その必要もあるのだろうと思う。しかしだからといって、そもそも協同組合の原理に基づく助け合いの組織を、市場原理の中にさらせばいいという意見には反対である。ましてや「既得権益」「岩盤規制」などと攻撃の対象とされ、TPP交渉の流れの中で解体を迫られることは、どこか間違っていないだろうか。JAバンクやJA共済も、そもそものJAによる購買、販売、加工、指導などいわゆる本来業務があり、それがあってこそ組合員がお金を預ける銀行業務や、助け合いの精神から生まれた共済事業である。そもそもの成り立ちの源流が、市場原理とは一線を画する互助的な取り組みなのである。そしてもちろん、私はこうした営みが日本社会に存在することを誇りに思うし、米国企業から「排他的」「不平等」といわれるゆえんは一切ないと考えている。
JA解体のもう一つの背景、目的は、日本の金融・保険市場を競争原理の市場に丸ごと放り込むということだ。それは米国業界の長年の意向であり、また安倍政権こそが「この道しかない」と進んで歩もうとしている道である。米国にとっては、仮にTPPが妥結しなくても、実質的には日米間の交渉にて日本の規制緩和・構造改革が実行されれば結果的に得たいものが得られるという構図になっていることに改めて批判と警鐘を鳴らしたい。