2015年3月30日月曜日

【国会質問編】米国の国会議員はTPP交渉テキストの全文の閲覧が可能―日本ではなぜ、できないのか?



3月29日のブログ「米国の国会議員はTPP交渉テキストの全文の閲覧が可能―日本ではなぜ、できないのか?」に関して、日本の国会議員からも反響は大きく、早速、何人かの議員が国会質問しています。
ぜひ質問と政府の答弁を聞き、何が真実かを私たちの目で確かめましょう。


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◆4月8日(水)
参議院予算委員会
紙 智子議員(日本共産党)から甘利明TPP担当大臣、安倍首相への質問

※参議院インターネット審議中継にてやりとりはご覧いただけます。日付、会議名、質問者などのキーワードで検索してください。
http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php


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◆3月30日(月)
参議院予算委員会
福島みずほ議員(社民党)から甘利明TPP担当大臣への質問

※参議院インターネット審議中継にてやりとりはご覧いただけます。日付、会議名、質問者などのキーワードで検索してください。
http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

以下、福島みずほ議員の質問と甘利明大臣の回答の文字起こしを掲載。

○福島みずほ君 社民党の福島みずほです。
 まず、TPPについてお聞きをいたします。
 アメリカの国会議員は、TPP交渉テキストの全文の閲覧が可能です。日本ではなぜできないんでしょうか。

○国務大臣(甘利明君) その中身がどこまでということがありまして、アメリカの関係者からも詳細が漏れてくるということはないんですね。どの国も、条約上の秘密保持義務と、それから国内から情報開示を迫られている、これに悩みながら対処しているところでございまして、日本としてもできる限り、条約上抵触しないような範囲を探りながらホームページに提示したりいたしております。
 アメリカのUSTRのホームページ見ましても、日本から特に詳細なことが、より詳細なことが出ているということは把握しておりませんけれども、今後とも、交渉上の守秘義務、この制約の中でどう工夫ができるかを模索しながら取り組んでいっているところであります。

○福島みずほ君 国会議員へのTPPテキスト全文の閲覧可能という措置を、アメリカ政府は、三月十八日、方針を議会に示しました。
 アメリカでできて、何で日本でできないんでしょうか。

○国務大臣(甘利明君) 今までアメリカ、特にUSTRは議会の要求に応えていろいろ開示すると言ってきましたけれども、実際は中身が全部分かるというわけではないんですね。
 アメリカ政府自身も条約上の守秘義務というのは他国にかなりきつく言っているところでありますから、その中でどういう開示の仕方をしていくんだろうと。全て公表しますということが本当にそのまま通るとはなかなか額面どおり理解できないところでありますから、アメリカの開示がどういう形になっていくのか注視をしているところであります。

○福島みずほ君 アメリカがこのテキストの全文開示をすれば、日本の国会議員にも同じような措置がとられるという、そういうことでよろしいでしょうか。

○国務大臣(甘利明君) まずアメリカがどういう開示をしていくのか、それと、当然、アメリカと日本の秘密保持義務が掛かる掛かり方も違ってくると思いますから、その辺のことをしっかり精査をしたいと思っております。

○福島みずほ君 もう少し前向き答弁してくださいよ。国民によって選ばれた議員に対して、アメリカは議員に対しては開示する、日本では何で開示しないのか。
 これは開示してくださいよ。お互いに保持義務があって、どの程度開示するかは国内、というか議会に対しての問題なんで、よろしくお願いします。

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【資料編】米国の国会議員はTPP交渉テキストの全文の閲覧が可能―日本ではなぜ、できないのか?


3月29日に掲載したブログ記事「米国の国会議員はTPP交渉テキストの全文の閲覧が可能―日本ではなぜ、できないのか?」の補足として、関連資料・報道などを下記にまとめていきます(随時更新していきます)。英文記事が多いので簡単な解説もつけておきます。

★米国の国会議員が「これまでTPPテキストを閲覧できていたこと」および20153月に「政府がその条件を緩和し『すべての国会議員にテキスト全文を見せる』ようにしたこと」を示す情報、関連記事


1.USTRのウェブサイト(20151月)
TPPTTIPなどオバマ政権の貿易交渉における説明責任・情報公開について書かれており、その中に「国民の代表である国会議員との協働について」という項目が立てられている。以下がその内容である。

◆国民の代表である国会議員との協働について
政府は国民の代表である国会議員と緊密に協力して我々の目指す野心的な貿易協定を追求している。この協力には以下が含まれている:
・すべての国会議員に対して、交渉テキスト全文へのアクセスを提供する。議員は国会の中で都合のよい時にテキストを見ることができる。またしかるべきセキュリティ許可を得た議員のスタッフを伴って閲覧することもできる。
TPPに関してだけでも1700回近くの議員へのブリーフィングをもってきた。ま
TTIPTPAAGOAその他についてもそれ以上行っている。
・国家議員に対して、交渉テキストのナビゲーションのために、TPPの各章の要約版を提供する。
・国会議員に対して、議会の委員会とともに作成した交渉での米国の提案を、交渉のテーブルにつく前に見せる。
・(USTRは)議会とともに働き、あらゆる段階において議会のフィードバックをもらい、交渉内容を更新していく。


2.米国政府のTPP交渉テキストの閲覧条件緩和を報じるロイター記事(318日)
http://www.cnbc.com/id/102516379 全文翻訳は下記。

米政府がTPPの文書閲覧条件を緩和、議会の懸念払しょくへ
 [ワシントン 18日 ロイター]
米政府は18日、環太平洋連携協定(TPP)の草案に関する閲覧条件を緩和する方針を議会に示した。TPPをめぐっては交渉内容が不透明なことへの懸念の声が出ており、一部の議員らは文書へのアクセスに条件が課されていることに不満を示していた。
条件変更は、米通商代表部(USTR)のフロマン代表とルー財務長官が出席した民主党の集会で明らかにされた。
フロマン代表は、新たな措置によって議員らはTPPの各章の要旨に加え、全文を閲覧できるようになると説明。声明で「われわれが労働者、企業、農業従事者のために米国にもたらそうと取り組んでいる利点について、議会メンバーが十分理解できるよう、前例のない追加措置をとった」と述べた。


3.米国政府のTPP交渉テキスト閲覧条件緩和に関してのロイター記事(詳細版)(319日)
「秘密交渉に苛立つ国会議員」と題され、318日に発表された国会議員へのテキストアクセス条件緩和について詳しく報じている。やはりロイターの配信だが上述の記事のさらに詳細。


4.米国政府のTPP交渉テキスト閲覧条件緩和に関しての"The Hill"記事(3月18日)
http://thehill.com/policy/finance/236114-white-house-provides-more-access-to-trade-deal-details
2と同様に、USTRによる閲覧条件緩和を報じる記事。


5.米国政府のTPP交渉テキスト閲覧条件緩和に関しての"Inside U.S. Trade"記事(3月18日)
"USTR To Place TPP Text In Capitol For Members To View With Cleared Personal Staff"
主には上記24の発表内容を報じているが、後半に「民主党下院議員のロイド・ドッゲッド氏らはこれまでも繰り返しUSTRが秘密交渉のテキストを見せないようにしていることへの不満を訴えてきた」との記載がある。また「127日に開かれた下院予算委員会にて、共和党のポール・ライアン予算委員長も政府に対し国会議員へのテキスト閲覧条件を緩和するよう求めた」と、両党からの緩和要求がなされていたことを併せて報じている。

※有料サイトにつきリンクはありません。


6.ニューヨークタイムズ紙の記事(2015325日)
325日のウィキリークスによるTPP交渉・投資分野のテキスト公表の後に書かれた記事。記事の趣旨はテキスト中のISDS条項がいかに危険かを訴えるものだが、文中に以下の記述がある。

Members of Congress have been reviewing the secret document in secure reading rooms, but this is the first disclosure to the public since an early version leaked in 2012.
国会議員はこれまで管理された部屋の中で秘密文書を閲覧してきた。しかし2012年にリークされた初期のバージョン以来、公に発表されたのはこれが初めてである(=ウィキリークスのテキストのことを指している)。


2015年3月29日日曜日

米国の国会議員はTPP交渉テキストの全文の閲覧が可能 ―日本ではなぜ、できないのか?




※3月30日、若干の補足と修正を行いました。米国と日本の議会の権限の違いについてわかりにくかったので補足をしましたが、全体の趣旨は変わりません。


USTRによる突然の「国会議員へのTPPテキスト全文の閲覧可能」措置

2015318日、米政府はTPP交渉の条文テキストに関する閲覧条件を緩和する方針を議会に示した。率直に言って、私はこのニュースに驚いた。日本のマスメディアでは私の知る限りどこも報じていない。日本語で発信されたのはおそらくロイター発の翻訳記事くらいである。まず以下にこれを転載する。

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 米政府がTPPの文書閲覧条件を緩和、議会の懸念払しょくへ
 [ワシントン 18日 ロイター]
米政府は18日、環太平洋連携協定(TPP)の草案に関する閲覧条件を緩和する方針を議会に示した。TPPをめぐっては交渉内容が不透明なことへの懸念の声が出ており、一部の議員らは文書へのアクセスに条件が課されていることに不満を示していた。
条件変更は、米通商代表部(USTR)のフロマン代表とルー財務長官が出席した民主党の集会で明らかにされた。
フロマン代表は、新たな措置によって議員らはTPPの各章の要旨に加え、全文を閲覧できるようになると説明。声明で「われわれが労働者、企業、農業従事者のために米国にもたらそうと取り組んでいる利点について、議会メンバーが十分理解できるよう、前例のない追加措置をとった」と述べた。
2015 03 19 10:40

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この原文となった記事や関連記事は下記のリンクで見ることができる。
U.S. lawmakers to get easier access to Pacific trade pact texts- officials
Congress irked by secrecy in Pacific trade pact

これによると、今回の条件緩和によって「米国国会議員は誰でも、テキスト全文を閲覧することが可能」とある。日本では、与党である自民党の国会議員ですら交渉テキストを見ることができない。その理由は、TPP交渉は秘密交渉であり、日本も参加時に他国と「保秘契約」を結んでいるから、というのが日本政府の立場である。
「しかし、どうしてそれならアメリカの国会議員はテキストを見られるのか?」という疑問を多くの人が抱くに違いない。また今回は「条件の緩和」であるからそれ以前もアメリカの議員は見ることができたのだろうか?とう疑問も当然起こってくるだろう。


★これまでも米国では国会議員へのテキスト閲覧が許されていた

少しさかのぼって解説すると、米国がTPP交渉に正式加入したのが2010年。それ以降、国会議員たちは秘密交渉への批判を行い、事あるごとに国会議員へのテキスト閲覧を求めてきた(註1)。そもそも米国では貿易交渉の権限は議会にあり、その意味において議員は交渉テキストへのアクセス権限を有しているのだが、オバマ政権は2002年に制定された超党派貿易促進権限法(Bipartisan Trade Promotion Authority Act of 2002)を、「通商協定を見ることができるのは下院監視委員会の委員あるいはその委員のために働く者のみ」といわば「勝手に」解釈し、すべての議員の閲覧を制限してきたのだ。
こうした動きに反対する議員たちの働きかけによって、すでに20134月の時点では、自分の関心のある分野に限定して、USTRの部屋に招き入れられて、持ち出し禁止でその分野のドラフトを見る、といった状態が確保されていた(註2)。日本がTPP交渉に参加したのは同年の7月であるから、日本政府はその時点で、アメリカの国会議員が限られた条件とはいえ、TPP交渉のテキストにアクセス可能だったことを把握していたことは間違いない。私自身も、米国の議員はテキストが閲覧可能という事実を知りえてはいたものの、その時点では全文公開ではなくドラフトの閲覧であるということもあり、また日本政府は「最大限の情報提供を国民にする」と一応述べており、心のどこかで「国会議員には少なくとも何らかの情報提供がなされるのではないか」と思っていたこともあり、大きな問題として指摘はしてこなかった。


USTRウェブサイトにも「すべての国会議員は全文テキストを閲覧可能」と記載

しかし、今回の閲覧条件の緩和のニュースは無視できない。なぜなら日本政府は交渉参加以降、一貫して国会議員へのテキストの閲覧を許さず、国民の代表である国会議員でさえ日本が交渉で何を主張したのか、ということすら把握できていない状態が2年近くも続いているからだ。
現時点のUSTRのホームページを見てみると、確かに情報更新がなされている。20151月時点での発表とされる下記ページは、TPPTTIPなどオバマ政権の貿易交渉における説明責任・情報公開について書かれており、その中に「国民の代表である国会議員との協働について」という項目が立てられている。以下がその原文である。

WORKING HAND-IN-HAND WITH CONGRESS, THE PEOPLE’S REPRESENTATIVES

The administration has worked closely with the people’s representatives in Congress as we pursue our ambitious trade agenda. This has included:

Providing access to the full negotiating texts for any Member of Congress, including for Members to view at their convenience in the Capitol, accompanied by staff members with appropriate security clearance.
Holding nearly 1,700 Congressional briefings on TPP alone, and many more on T-TIP, TPA, AGOA and other initiatives.P
Providing Members of Congress with plain English summaries of TPP chapters to assist Members in navigating the negotiating text.
Previewing U.S. proposals with Congressional committees before taking them to the negotiations.
Working with Congress to update them on the state of the negotiations and get feedback every step of the way.


【以上の翻訳】
国民の代表である国会議員との協働について

政府は国民の代表である国会議員と緊密に協力して我々の目指す野心的な貿易協定を追求している。この協力には以下が含まれている:
・すべての国会議員に対して、交渉テキスト全文へのアクセスを提供する。議員は国会の中で都合のよい時にテキストを見ることができる。またしかるべきセキュリティ許可を得た議員のスタッフを伴って閲覧することもできる。
TPPに関してだけでも1700回近くの議員へのブリーフィングをもってきた。ま
TTIPTPAAGOAその他についてもそれ以上行っている。
・国家議員に対して、交渉テキストのナビゲーションのために、TPPの各章の要約版を提供する。
・国会議員に対して、議会の委員会とともに作成した交渉での米国の提案を、交渉のテーブルにつく前に見せる。
・(USTRは)議会とともに働き、あらゆる段階において議会のフィードバックをもらい、交渉内容を更新していく。

私はこれを見た際に、大変に驚いた。フルテキスト(全文)を好きな時に見られる、というのだから。日本の国会議員が聞いたらさぞ驚くだろうと思ったし、私たち市民も同様である。しかし米国市民社会自身も、実はこの「進展」についてはそれほど大騒ぎをしていない。日本においても同様である。このことは私の最大の疑問と謎であり、この記事を書きながらも各所に問い合わせをしたり各国のNGOメンバーに質問を送ったりしている。

TPAを取得しTPP交渉を進めたい米国政府の意図

さて、今回のUSTRの情報公開への前進の理由は何か。
当然のことながら、「TPP交渉を進めるための最大アイテム“貿易促進権限(TPA)”をオバマ大統領が取得できるようにするため」である。かねてから民主党議員はテキストへのアクセスの条件緩和を強く求めてきた。TPAは今も法案すら提出できていない状況であり、提出したからといってうまく議会を通過する保障はない。そこで今のうちから表向きの「情報公開」を進め、何とかTPA賛成を取り付けようという米国政府の意図が透けて見える。
こうした背景もあり、318日のこの発表以来、実際にどれくらいの議員が「自由に閲覧」したのかは現在調査中である。この時期、議員は予算作成に必死であり、また確かに情報公開問題よりもTPAをめぐる状況、米国におけるISDS批判が現時点では激しく動いているので、正直、全文テキストを見ている場合ではないのかもしれない。また見ていたとしても、その中身を他言することは強く政府から禁じられているので、メディアはもちろん市民団体へのリークなどもない状態と思われる。今回の条件緩和については、「議員には厳しい守秘義務が課せられており不十分」「USTRのポーズに過ぎない」という批判の声も上がっており、私も米国政府が完璧だなどというつもりはない。
しかし曲がりなりにもUSTR自身のホームページにて、「すべての国会議員がテキスト全文を閲覧可能」と書かれているのだ。このことは日本の状況とあまりにもかけ離れているではないだろうか。繰り返すが、これを知れば多くの人が、「TPPは国会議員さえもテキストを見ることができない、秘密交渉ではなかったのか」と思うのではないだろうか。

★そもそも保秘契約には何と書いてあるのか?
   日本の議員がテキストを見られないのは「誰の」判断なのか?

しかし日米両国でなぜこのような「違い」が生まれ、それが許されるのだろうか。
私はこの問題のカギは、TPP参加の際に各国が取り交わす「保秘契約」にあると考えている。日本政府も、20137月の正式参加の際に、この契約書にサインをしているのだが、その契約の中身は、一切の秘密である。
 当初私は、この契約書には「交渉中のテキストは自国の国会議員にさえ見せてはならない」あるいは「交渉官しか見てはならない」というような中身が書かれていると想像していた。だからこそ、どの国の政府も、自国の国会議員にテキスト閲覧を許していないのだろうと。しかし実際には、先述のとおり米国では20134月時点で限定的にではあるが国会議員の閲覧が実際に可能となっていた。
実は米国では「秘密交渉といえども、いつの時点でどのように自国の国会議員に交渉内容を知らせるかは、自国の判断がある」という慣例がある。これは、米国議会の権限に起因する問題である。米国政府には貿易交渉の決定権はない。だから現在、その権限を大統領に与えるかどうかをめぐりもめているわけだ。だから議会への秘密交渉はあり得ず、テキストはどこかの段階で国会議員に見せる必要がある。この点が制度的に大きく日本やその他の国と異なる点だ。
USTRの使命は、突き詰めれば「米国流の貿易ルールを世界に輸出すること」なので、米国にとっての「グローバル化」はすなわち「米国化」。12か国全体の交渉であっても実は「米国がつくってきた交渉内容」という意識が根強く、他国の国会議員がどんなにテキストにアクセスできなくても、米国の国会議員にはその権利がある、というくらいの感覚がある(何というジャイアン・ルール!)。
米国NGOに真相を尋ねたところ、「機密文書の扱いについては各国政府の判断で行われている。米国においては過去のNAFTAなど過去の貿易交渉の際、USTRは国会議員に交渉中のテキストを見せていた。その意味では米国の国民や国会議員にとって、今回のテキスト閲覧を許すという決定は驚くべきことではない」との答えが返ってきた。この答えに、驚いたのはこちらの方だ。米国以外の国からしてみたらこうした行為や感覚は理解を超え、にわかに受け入れがたいものがある。
しかし整理して考えてみれば、実際には保秘契約に「各国政府は交渉内容を秘密にすること」と取り決めてはいるものの、交渉中のテキストを自国の国家議員に対して見せるのかどうか、という取り組めまでは細かく規定されていないことになる。だからこそ米国政府は米国流の「独自の判断で」自国の国会議員への閲覧条件を緩和し全文まで見せるとしたのだ(もちろん民主党議員を「黙らせるためのポーズ」という側面はありつつだが)。

そして問題は、「ではなぜ日本では、政府が国会議員にテキスト閲覧を許していないのか」ということである。答えは簡単で、米国と違って貿易交渉権限を持つ日本政府が「独自の判断で」見せない、と決めているからだ。あるいは米国から「俺のところは制度が違うから見せるけれども、お前のところは見せるなよ」と脅されているのだろうか? とにかくこの非対称なあり様はあまりにも奇異である。
このことを政府に問いただせば、おそらく「保秘契約を結んでいるから国会議員にも見せられないのだ」と答えるだろう。「ではなぜ、米国では国会議員が全文を閲覧できることになっているのか?同じ契約を結んでいるのではないのか?」と聞いたら、日本政府は何と答えるのだろうか。単純な話で、もし米国が保秘契約に書かれている内容を破って自国の国会議員への閲覧を許したのだとしたら、「保秘契約違反ではないか」と訴えればよい。逆に保秘契約に国会議員への閲覧規定まで書かれていなかったのだとしたら、日本も米国同様、せめて国会議員への閲覧を保障すべきである。そして、その大前提として、これまでも一切秘密である「保秘契約」の内容を、我々国民にすべて開示するべきである。

米国も相当勝手な国だと私は思っているし、USTRも死にもの狂いで妥結を目指す中で、なりふり構わぬ条件緩和をしてきたことは事実だろう。しかし日本も日本であって、もし本当に、特別な取り決めもないにも関わらず、国会議員への閲覧を禁止していたとすれば、これは大問題である。今回のUSTRの発表を機に、改めて交渉参加以降の日本政府の「情報公開」のあり方を疑わざるを得ないし、実は交渉国全体での取り決めとは別に、日本政府独自の判断(=国会議員には見せたくない)があるのではないかとの疑問が拭えない。
とにかく真実を知り、多くの人たちと共有するために、まずは野党の国会議員数名に連絡をとって国会でぜひ質問をしていただきたい、とお願いをしている。政府にもぜひ誠実に答えていただきたい。早ければ週明けにはこの件での質問が出される可能性もあるので、ぜひみなさんも注目していただきたい。メディアのみなさんには、ぜひこの件を深く取材し真実を伝えていただきたい。

 また与野党を問わずすべての国会議員に強く呼びかけたい。
「米国の国会議員は、他言禁止という約束はあるが、それでも国民の代表として、TPP交渉のテキスト全文を閲覧できることになっている。一方、日本では政府の判断によって国会議員の交渉テキストへのアクセスが不可能になっているのですよ」と。そしてせめて国会議員にはテキストを見せるという状況をつくっていかなければならない。私も最大限のご協力や情報提供をするつもりである。

 もちろん最終的には国会議員だけでなく、すべての国民・住民に対して交渉テキストが開かれるべきであることはいうまでもない。


【註】
1▼民主党ワイデン議員が2012年の時点でTPP交渉テキストの秘密性について指摘。「米国のTPP文書は、アメリカ国民を代表するすべての議員が入手可能だ」と建前を述べるUSTRに対抗し「議会通商交渉監視法」案を議会に提出している。
2▼日本の参加表明がなされた2013315日の後、民主党国会議員団が米国を訪問し、国会議員や業界団体などを訪問、ヒアリングを行う中でもこの事実は確認されている。
2013/04/26 TPP慎重派訪米団が帰国会見 米国議員は「TPPと安全保障はリンクしない」と認識! ~TPPを考える国民会議「米国におけるTPPに関する実情調査団」帰国会見」

2015年3月1日日曜日

米国議会で議論噴出のTPPと「為替操作禁止条項」 ―なぜ日本のマスメディアでは報じられないのか




★日本の交渉参加時点からあった米国の批判

 20137月に日本がTPP交渉に参加してから1年半が過ぎた。ちょうどこの3月で参加表明から丸2年が立とうとしている。参加表明の翌月の4月、日米の二国間協議が行われ、自動車や農産品の関税問題などの議論が実質的にここからスタートしたことになる。
 以来、今日に至るまで、私には不可思議なことがある。20134月の日米協議の時点から米国が強く主張してきた「為替操作禁止条項をTPPに盛り込む」ということについて、日本の報道では一貫して扱われてこなかったという点だ。
 この為替操作禁止条項とは何か。
 20134月時点で、米国内では日本の参加がほぼ確実とされ、その上で、米自動車業界などの間では「日本が意図的に円の価値を引き下げていることで国内自動車メーカーの競争力を不当に高めている」との批判が広がっていた。サンダー・レビン下院議員(民主党、ミシガン州)は、米政権が412日に日本のTPP協議参加を表明したことに対し、日本が自国通貨を「操作している」と公然と非難。またミシガン州選出議員団中16人全員が、様々な機会に「為替操作」をしているとして日本を非難している。
 こうした産業界や議員の不満を受け、5月にはTPPに為替操作に対する新たな規定を追加するようオバマ大統領に求める書簡に署名した米超党派議員が200人近くに上った。ロイターによると、この書簡は「為替操作への対策で合意することが必要だ」とし「為替に関する規定を盛り込むことで、不公平な通商慣行と闘い、米国の労働者や企業、農業経営者にとり公平な場を作ることができる」としている。書簡は、ジョン・ディンゲル議員(ミシガン州、民主党)やリック・クロフォード議員(アーカンソー州、共和党)など超党派の下院議員がとりまとめている。
 その後、20137月の日本の交渉参加を経て今日に至るまで、日本の円安誘導政策に対する米国産業界からの不満は一貫して続いている。
 20141月には米自動車大手3社(ビッグスリー)で構成する米自動車政策会議(AAPC)が、TPPに為替操作規制を設けるよう呼びかけを行った。「不公正な競争利益を得ないよう、TPP参加国は為替レートを操作しないことを約束すべき」とのこの主張は、まさに日本の自動車メーカーが米市場で優位に立つ恐れを懸念してのものだ。
AAPCマット・ブラント会長は記者会見で「為替操作により、最も有望な貿易協定でも台無しになりかねない」と指摘。「TPPの最終合意には、政府介入でなく市場が為替レートを決めるという、強力で実施可能な通貨規律が盛り込まれる必要がある」と述べ、TPP参加国が外貨保有や外国資産買い入れによる介入などに関し情報を透明化するよう要求、規則違反が見つかった場合、違反国への関税上の優遇措置を最低1年間停止することを参加国に認めるとしている。

★なぜ米国の主張が伝えられないのか

この為替操作禁止ということ自体は、主権侵害に近い発想であり、正直「そこまで干渉するつもりなのか」という感想を抱かざるを得ない。米国が為替操作について標的にしているのは日本と、そして中国であるが、こうした要求が米国議会でまかり通っていることを知れば、多くの国民が驚き、怒りを持ち、そしてTPPというツールがこのような形で米国の都合で形成されていくのか、と実感するだろう。
 ところがこのこと自体が日本のマスメディアではほとんど報じられないか、単に「米国が為替操作禁止を求めている」という程度の話しか伝えられない。つまり日本が非難され、完全にターゲットにされている、という文脈ではないため、事の本質が十分に伝えられなかったのである。
 なぜだろうか?ワシントンやニューヨークにいる日本のメディアの駐在記者が「知りませんでした」というには無理がある。いやワシントンやニューヨークにいる必要もなく、米国各紙の膨大な量の記事はネットから容易に読むことができる。にもかかわらずこのことが伝えられないのは、「日本の円安操作=アベノミクスの苦肉の策」であり、それが米国産業界の逆鱗に触れている、ということはアベノミクスのまやかしを暴くことにもなりかねいからではないだろうか。あるいは「米国からこんなにキレられている」ことを報じることがタブーとされているのか、主権侵害ともいえる要求が容易にされてしまうTPPの本質が日本に知れ渡ると何か都合が悪いのか――。いずれにしてもそこには何らかの政治的判断あるいは政治的圧力があると想像しない限り、私には納得いく理由が見つからない。


★今まさに大論争となっている為替操作禁止条項
  
それから1年あまりが過ぎたわけだが、為替操作禁止条項については実はここ最近、TPP交渉全体にも影響を与えかねない大きな論点となっている。
20152月、米議会では超党派議員が日中などの為替操作を阻止する法案を提出した。他の議員からも同様の提案が出ている。交渉全体は1月のニューヨークでの首席交渉官会合が思うように進展していないため、3月の閣僚会議は開催されないことになった。しかし来年の大統領選までに妥結、批准をしたいというオバマ大統領にとっては、この春に「大筋合意」を取り付けておかねば間に合わない。米国内の一番のネックとなるのはTPA(大統領への貿易促進権限)をオバマが手にできるかという点だが、それと並行して為替操作禁止条項についても、共和党・民主党それぞれの中で意見が異なり、激しい議論となっているのである。
「為替操作禁止条項をTPPに盛り込め」という勢力がある一方、慎重派の主張は、「そろそろ妥結に近いTPP交渉に、さらに難航するであろう為替操作禁止条項を盛り込めば、妥結が遅れてしまう」というものと、「そもそも日本の円安誘導は制裁を与えるべき為替操作にあたらないのではないか」という立場からのものとに大きくいって分かれている。
慎重派の意見として、クリントン政権で大統領経済諮問委員を務めたジェフリー・フランケル氏(ハーバ-ド大学教授)は「責任を転嫁しようという動きは常に存在する」と発言。元財務省高官のテッド・トルーマン氏は「(制裁条項は)ほぼ確実に交渉の難航を招く古典的な例といえる」と指摘。イエレン連邦準備理事会(FRB)議長も、224日の議会証言で、為替操作に対する制裁条項は金融政策に「支障」を来たしかねない、と反対する立場を示した。
このように対立と議論は尽きず、最終的に為替操作禁止条項がTPPに盛り込まれるのかどうかは55分の可能性だと私は見ている。前述のTPA法案自体、2月の早めに出され、3月の上旬には取得か、という説もあったが、実際には現時点(228日)になっても法案提出すらされていない。それどころかつい数日前、米上院財政委員会は貿易問題をめぐる公聴会を無期限に延期すると発表したのだ。理由は、TPA法案をめぐる協議が難航しているためだという。
「妥結が近い」といわれる交渉だが、実はよく目を凝らしてみれば米国議会内は為替操作禁止条項やTPA法案をめぐって大もめにもめているのである。このかんオバマ大統領は、血眼になり「俺にTPAをくれ!」と議会や国民に対する強烈な働きかけとアピールを行っている。またフロマン代表をはじめとするUSTR関係者も、念仏のように「妥結妥結」とメディアに語り続けている。しかし冷静に考えれば、TPA取得や妥結が米国内で楽観できないからこその彼らの強い訴えではないか。そして注意しなければならないのは、日本のマスメディアでは米国が「希望する」こうしたスケジュール感だけが、ともすれば垂れ流される。「妥結は近い」「妥結は近い」と日々繰り返し見出しに書かれれば、「ああ、そうなのか・・」と洗脳されてしまう危険があることだ。米国の議会は少なくとも現時点で、為替操作禁止条項にしろTPA法案にせよ、議論を尽くし一つの意見にまとまってなどはいない。

本稿の後編として、近日中に米国の市民社会によるTPA反対!の大キャンペーンを紹介したいと思うが、米国議会が「TPP推進」で足並みがそろわない一つの理由は、これら市民社会からのねばり強いロビイ活動やアクションがあるからこそだ。