2016年8月29日月曜日

RCEP交渉に市民社会を十分に関与させるよう求める国際公開書簡

RCEP協定交渉中の16カ国政府への公開書簡
―市民社会を交渉のステークホルダーとして

十分に関与させるよう求める―

 RCEP協定交渉で示されている原則によれば、16カ国政府は「現代的で、包括的な、高水準で相互に利益をもたらす連携協定」を、ASEAN加盟国およびASEANとのFTA締約国との間で達成することを目指している。RECPはモノの貿易やサービス貿易、投資、経済・技術的な協力、知的財産、競争、紛争解決メカニズム、その他の分野をカヴァーしている。

 これらの課題は、交渉に参加している16カ国の人々の日常生活に影響を及ぼす。入手可能であり生命を維持するための医薬品へのアクセス、安定した良質な仕事、小規模農家や中小企業の存続、金融の安定、先住民族の知識、環境保護、気候変動対策、その他多くにRCEPは影響を与えるのである。

 このように重要な交渉に影響を受ける多様なコミュニティの人々は、交渉で現在何が提案されているのかを知る必要があり、彼らの視点や懸念を表明する効果的な機会を持ち、そして交渉官に彼らの分析や提案を提供するべきである。

 RCEP参加国のうち、オーストラリア、ブルネイ、マレーシア、ニュージーランド、ベトナム、シンガポールそして日本の7カ国は、TPP交渉の際にステークホルダーの関与が重要であることをすでに認識しているはずである。TPP交渉では、各国が主催した交渉会合において、会合の中にステークホルダー会合が位置付けられてきた。もちろんそのプロセス自体は不十分であり、特に交渉が終了する直前でステークホルダー会合は行われなくなってしまった。

 私たちは、これまでのRCEP交渉会合において、ビジネス界の利害関係者は会合に招かれ、彼らの意見は交渉国に伝えられていると理解している。しかしRCEP交渉は、市民社会には閉ざされたままである。ビジネス界以外のステークホルダーである私たちが、懸念を表明する限られた機会を与えられたのは、第12回交渉会合が初めてであった。

 オーストラリア・パースでの会合と、そしてその後のニュージーランド・オークランドでなされたステークホルダーの関与は、今後も継続し、そして少なくともTPP交渉と同様の形までは拡大されるだろうと私たちは期待していた。しかし、直近の交渉会合において、そのドアは再び閉められてしまった。市民社会を除外することは、交渉に対して懸念と疑念を高めるだけである。

 こうした経緯から、私たちはRCEP交渉に参加する16カ国政府に、今後のすべての交渉会合において、ステークホルダーが関与する効果的な機会を提供することを求める。その際には、ステークホルダー会合が行われる日時を事前に告知し、作業中のテキストを各交渉会合後に公開し、RCEPの実施に関する完全な評価と公開の議論ができるようすることを伴う。交渉の終盤を迎えている現時点であっても、である。

2016年8月29日


【署名団体】


Electronic Frontier FoundationGlobal
GRAINGlobal
International League of Peoples Struggle (ILPS) - Peasant CommissionGlobal
International Trade Union Confederation (ITUC)Global
LDC WatchGlobal
Asia Pacific Forum on Women, Law & Development (APWLD)Regional
Building and Wood Workers’ International Asia-PacificRegional
Asia Pacific Research Network (APRN)Regional
Public Services International, Asia-PacificRegional
Southeast Asia Tobacco Control AllianceRegional
Asian Peasant Coalition (APC)Regional
People’s Health Movement AustraliaAustralia
Public Health Association of AustraliaAustralia
Australian Fair Trade and Investment NetworkAustralia
Social Action for ChangeCambodia
Women’s Network for UnityCambodia
Cambodian Grassroots Cross-sector NetworkCambodia
Cambodian Labour ConfederationCambodia
The Messenger BandCambodia
United Sisterhood AllianceCambodia
Rainbow Community KampucheaCambodia
Forum Against FTAsIndia
ThanalIndia
Alliance for a Sustainable and Holistic AgricultureIndia
Save our Rice Campaign - IndiaIndia
Tamilnadu Organic Farmers FederationIndia
Vithu TrustIndia
Serikat Perempuan IndonesiaIndonesia
Indonesia for Global JusticeIndonesia
Kolektif AnarkonesiaIndonesia
Institut PerempuanIndonesia
Ahimsa SocietyIndonesia
Federation of Indonesian Labours Struggle (FPBI)Indonesia
People’s Action against TPPJapan
Pacific Asia Resource Center, PARCJapan
Positive Malaysian Treatment Access & Advocacy Group (MTAAG+)Malaysia
Consumers’ Association of PenangMalaysia
Sahabat Alam (Friends of the Earth) MalaysiaMalaysia
Cooperative Comittee of Trade UnionMyanmar
It’s Our FutureNew Zealand
Mana MovementNew Zealand
New Zealand Council of Trade UnionsNew Zealand
Kilusang Magbubukid ng Pilipinas or Peasant Movement of the Philippines (KMP)Philippines
Resistance and Solidarity against Agrochem Transnational Corporations (RESIST)Philippines
Sentro ng Nagkakaisa at Progresibong ManggagawaPhilippines
Initiatives for Dialogue and Empowerment through Alternative Legal ServicesPhilippines
Knowledge CommuneSouth Korea
IPLeftSouth Korea
The International Trade Committee of the MINBYUNSouth Korea
Korean Federation of Medical Groups for Healthrights (KFHR)South Korea
People’s Solidarity for Participatory DemocracySouth Korea
AIDS ACCESS FoundationThailand
Alternative Agriculture Network (AAN)Thailand
BioThai FoundationThailand
Drug Study GroupThailand
Ecological Alert and Recovery – Thailand (EARTH)Thailand
Foundation for AIDS RightsThailand
Foundation for ConsumersThailand
Foundation for WomenThailand
FTA WatchThailand
Indigenous Women’s Network of ThailandThailand
Renal Failure Patient GroupThailand
Rural Pharmacy AssociationThailand
Thai Holistic Health FoundationThailand
Thai Network of People living with HIV/AIDS (TNP+)Thailand
The Women’s Network for Progress and PeaceThailand
Vietnam Network of People living with HIV (VNP+)Vietnam



2016年8月24日水曜日

国際NGOによる、ジェネリック医薬品へのアクセスに関するRCEP参加国政府への要請


 7月末にマレーシア・クアラルンプールにて行われた「RCEPに対するNGO国際会合」に参加した団体が中心となり、下記の国際共同要請文をリリースしました。

  RCEPには知的財産、ISDSなど様々な問題がありますが、日本ではほとんど理解されていません。TPP同様、PARCでは今後RCEPに対するウォッチとロビイングを強化していきます。ぜひご覧ください。

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公衆衛生と健康に関わる市民組織は、
RCEPにおいてジェネリック医薬品へのアクセスに
悪影響を及ぼす条項を拒否することを各国貿易大臣に求める

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東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、ASEAN10カ国(ブルネイ、ミャンマー、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)と、ASEANとFTAを締結している中国、インド、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの6カ国の計16カ国で現在交渉中の自由貿易協定である。特筆すべきは、ここには米国は含まれていない。

 RCEPには、知的財産(IP)に関する章があり、生命を救うために欠かせない医薬品へのアクセスに関わる内容が書かれている。2016年4月にリークされた文書によると、韓国と日本は、医薬品特許による独占期間を延長する規定と、データ排他性に関する規定を提案していることがわかった。これは、入手可能なジェネリック医薬品が市場に出ることを遅らせることにもつながる内容であり、またWTOのTRIPS協定が求める知的所有権の保護規定を越える内容である。

 この章によって特に、特許の保有者と市民の健康への権利との間の公正なバランスを保つことを目指しているインドの知的所有権法に対する影響が懸念されている。

インドは世界最大のジェネリック医薬品の製造国であり、世界の低中所得国(LMIC)におけるHIV感染者に対する抗レトロウイルス(ARV)ジェネリック薬の80%以上を供給している。インドのジェネリック医薬品産業は年月をかけて、ARV薬のコストを最大98%も下げてきた。それによって必要な医薬品にアクセスできる人の数は劇的に増加することになった。

 もしインドがRCEPで「TRIPSプラス」の規定に署名することを強制されるならば、世界でも最も貧しい低中所得国の人々が、入手可能なジェネリック医薬品にアクセスできなくなるという深刻な危機に直面する。たとえば、マレーシアはインドでは一般的なARV薬を国内のHIV陽性の人びとに無料で提供している。もしマレーシアがインドのジェネリック薬にアクセスすることができなくなれば、マレーシアはこれまでのようなHIV患者への治療プログラムを継続することができなくなる可能性が非常に高い。

 RCEPには、インドネシア、フィリピン、タイ、中国、ベトナムのように、入手可能な医薬品へのアクセスを確実にするには巨大な人口を抱え、また経済的に困難を抱える低中所得国も含まれている。ラオス、カンボジア、ミャンマーの後発開発途上国(LDC)は、入手可能な医薬品へのアクセスを提供するために苦労しており、WTOの医薬品の知的財産保護規定を2033年まで延長するため努力をしている(これらの国がLDC諸国である限り、延長する資格があることを求めている)。

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、アジア太平洋地域でHIV治療を必要としている人のうちわずか3分の1の人びとしか実際にその治療にアクセスしていないと報告している。もしRCEPが知的所有権保護の高い水準で同意されれば、治療にアクセスできない人の数は増加するだろう。

 RCEPのような地域貿易協定において知的所有権に関する章を正当化する理由はない。
私たちは、すべての交渉国に、RCEPにおいてあらゆる「TRIPSプラス」措置を拒絶することを求める。特に、韓国や日本、オーストラリアやニュージーランドのようなより豊かな国に対して、世界の貧困層の医薬品へアクセスを脅かす知的所有権の条項を押しつけることをやめるように求める。










































































































































2016年8月12日金曜日

新たなメガ貿易協定:RCEPはアジアの農民の種子にどのような意味を持つのか?


RCEPに関して、日本国内ではほとんど報道がないが、アジアの人びと、とりわけ農民からは危機の声が上がっている。しかもその矛先は、日本が提案している中身に直結している。
農民や先住民族が長年当たり前のように行ってきた、種子の保存や交換が、RCEPで企業の知的所有権が強化されることで、できなくなる危険だ。同じ規定はTPPの中にも含まれており、まさに企業による種子のさらなる支配が今以上にグローバルに進むことになりかねない。

今回は、国際NGOであるGRAINによる報告書の翻訳をご紹介します。


新たなメガ貿易協定:
RCEPはアジアの農民の種子にどのような意味を持つのか?

GRAIN201637日)


翻訳:内田聖子
※無断転載禁止


20162月、議論の末、アジア太平洋地域の12か国をカヴァーする新たな貿易協定、TPPがニュージーランドにて署名された。米国によって牽引されてきた交渉の結果、TPP協定は中国を除外する形で、いくつかの選ばれた国の中での巨大な貿易と投資を目的とするものである。TPPは農民たちが種子を手に入れ、種子を管理していく行為に大きなインパクトを与えるであろう。しかし、アジアではRCEPという別の「メガ」貿易協定がうごめいている。GRAINによる本レポートは、RCEPがこの地域で農民の種子にどのような意味を持つのかを、最近署名されたTPPとの文脈の中で考察するものである。

★新たな貿易協定における種子についてのより強烈なルール

TPPに続いて、もう一つの地域貿易協定が現在交渉されている。この協定は農民の種子に規制を押し付けるものである。TPPほど知られていないこの協定はRCEPといい、東南アジア諸国連合(ASEAN10か国(=ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)と、ASEANと自由貿易協定(FTA)をすでに締結している6か国(=オーストラリア、中国、インド、ニュージーランド、日本、韓国)の貿易協定である。TPPが世界貿易うち8億人、13%を占める一方、RCEPはその4倍以上の人口をカヴァーする。つまり35億人、世界貿易の12%である。
他のFTAと同様に、RCEPが適用される分野は広範囲で、モノとサービスの貿易から、投資、経済的・技術的な協力、知的所有権、競争と紛争解決メカニズムまで含まれている。RCEPTPPを「より控えめにした」バージョンの貿易協定と思われており、関税削減という調和の要求は弱く、基準も低く、さらにその速度も遅いことから、多くの人は、RCEPは低所得国・中所得国に有利なものだと考えている。しかしリークされた交渉テキストは、アジアの農民による種子の管理と、先住民族や地元の人びとによる伝統的な知識の行く末にとって、RCEPには深刻な懸念が含まれることを提起している。

★種子:農業の支柱

農民は、土壌の種類や食性、家畜の需要、気象パターン、水の利用可能性そして地域の文化など数々のことを考慮した上で作物を選択する。彼らは自ら種子を保存し、自由に交換するという長い伝統を持っている。そして、異なる種子をかけあわせ、次の作付時期に向け種子を蓄えてきた。しかし、これらの伝統は、もはや当たり前のことではない。1960年代の「緑の革命」以降、アジアの農民は、農民の種子をいわゆる高収量品種へと切り替えさせるための政府と企業による計画によってひどい打撃を受けてきた。今日では、西洋諸国の遺伝子組み換え(GM)種子企業は、中国のハイブリッド米の種子生産者と同じように、アジアへの種子の供給を支配するため争っている。

これら企業は、農民の種子よりも自社の種子の方が「優れている」といって販売を促進する。その目的は、最終的に農民の種子に取って代わるためである。さらに、企業は種子の私有化を許可するよう種子に関する法律を改訂するよう政府へ圧力をかける。アジア太平洋種子協会によれば、農場にて保存された種子はアジアで使われるすべての種子の80-90%を占める。種子産業は、この自給自足の地域供給を、商業的な種子へと入れ替えることを望んでいるのだ。

種子を支配し独占しようとする企業の圧力は、さまざまな形態をとる。ある戦略では、植物種の保護か、特許権をとるかのいずれかを義務づける知的所有権に関する法の策定を通して、種子の私有化の圧力を相手国にかける方法がとられる。しかし他の法律を策定した場合も同じような効果を持つ。例えば、種子の承認に関する規則やマーケティングに関する規制、食の安全管理体制などがそうである。地理的表示(原産地表示)のように、知的所有権に関して「ソフトに」見えるルールであっても、農民が自らの種子を蓄え、交換し、売ったり植えたりすることを違法行為とすることが可能なのである。
貿易協定は、こうした種類のルールを政府に実行させるための格好のメカニズムとなった。1995年以降、世界貿易機関(WTO)は、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)」という特別な取り決めを有している。これは参加国すべてに種子の私有化を強制するものである。しかしモンサント社やシンジェンタ社のような種子企業にとって、WTOでの合意は不十分なものにとどまっている。

★リーク文書が示すほんとうの危険性

2015年、市民社会組織が、RCEP交渉中に日本、韓国、インド、ASEAN事務局から提案された知的所有権(IPR)についての協定文のリーク文書を発表した。この文書から、農民の種子に対するほんとうの危険が数多く読み取れる。

★日本と韓国は、すべてのRCEP参加国にUPOV1991条約批准を求めている

UPOV 1991条約(1991年植物新品種保護国際条約)は、各国がどのように植物種の保護を実行しなければならないかについての一連の共通基準を定めている。それは農民の経済的負担と引き換えに種子企業に有利に働くことになっている。UPOV 1991条約の下で種子企業は、ある種子を「彼らの」ものとして、生産と繁殖、販売、輸出入を支配する占有権を手にすることができる。もしこれらの流れの中に参入し種子を使用したい場合は、誰であれ種子企業に許可を得てロイヤリティ(特許使用料)を支払わなければならない。UPOV 1991条約の下では、使用料を支払い政府が認可しない限りは、私有化された種子の保存や交換をすることはできない。企業の力を促進させるこの占有権は、特定の状況下では作物の収穫の段階にまでも拡大する。

UPOV 1991条約の下で種子企業は、農民が許可なくして企業の持つ種子を保存したり、企業の種子と類似している種子を交換した場合、企業の権利が侵害されたと主張することができる。したがって日本と韓国によるこの提案から、農民の種子に関する行為がターゲットとなり、奪われ、破壊されるという危険が予測される。

★日本は種子の保存を違法とすることを求めている

 日本のRCEP交渉の提案は、植物種の権利が故意に侵害された際、それを刑法のもとで裁こうとするものである。これは、種子の輸出入が監視されることを意味する。また種子企業からの許可がなかったり、ライセンス料が未払いであると疑われた種子は、いかなる場合であっても出荷が停止される。もしその種子が企業の占有権を侵害していることが明らかになれば、その種子はただちに廃棄され、企業に罰金を支払うことになる。

種子の扱いに対する処罰がこのように段階的に拡大されてきたことは、アジア地域の農民たちにある結果をもたらす。RCEP域内の国境の多くは「浸透性」が高い。例えば人びとが域内を移動する際に、種子を持ち運ぶことはよくある話だ。いくつかの貿易協定の下で、国境を越えて種子を運んだという疑いをかけられただけで、それが意図的であったかどうかに関わらず、犯罪として処罰される可能性が生じてきた。日本の提案は、そこまでの段階のものではないが、しかしアジアをこうした方向へと導くものである。

★インドは、すべてのRCEP参加国が伝統的な知識を体系化し、特許庁が利用可能とすることを求める

RCEPの知的所有権章の中で、インド政府は、WTOTRIPS協定のレベルでの知的所有権ルールを維持することを求めている。しかしインド政府はまた、遺伝資源へのアクセスと、農民の種子に関連した伝統的な知識のデータベース化を促進することを定めた生物多様性条約(CBD)の規定をRCEPに盛り込むことを求めている。実際、インドはRCEP参加国すべてが、生物多様性条約名古屋議定書を実施することを求めている。インドはまた、利益を共有するという目的で、RCEP参加国すべての特許庁が、あらゆる発明で使われる生物学的素材の起源を明らかにすることを求めている。

種子は、ソフトウェアではない。特許権だけでなく、生命のデジタル化や伝統的な知識についても、まさにその概念が激しく争われている。もし遺伝資源や伝統的な知識のデジタル情報が集められ、利用可能となれば、モンサント社やシンジェンタ社のような企業は簡単にそれらの情報庫を利用し、農民や先住民族コミュニティが所有する知識や遺伝資源を流用することができる。

インド中の農民は、何十年もの間、生物多様性の登録に彼らの種子を文書化することの賛否を活発に議論してきた。それが地元の人びとによる管理のために計画されていても、多くの人はそのようなツールには反対している。なぜなら地元による管理権を失うというリスクが高く、潜在的に破壊的であるという理由からだ。さらに、多くの社会運動体は、伝統的な知識あるいは生物多様性(農民の種子のような)が政府に帰属するという考えには同意していない。CBDの下で、インドは国家主権を主張し、そして種子の国家による所有権を主張している。しかし、多くの人びとは種子や種子に関する知識は、地元コミュニティの下にあるべきだと信じている。

★農民にとって何を意味するのか?

過去50年以上もの間に、農民運動の強い抵抗があったにも関わらず、多くの国で種子に関する政策は農民に対してより厳しく、そして種子企業にとってより自由なものと変化してきた。例えばタイでは、2013年、EUとのFTA交渉の草案テキストがリークされた時、数千人もの人びとがチェンマイでデモを行った。リーク文書の中で、タイはUPOV1991条約批准が求められていた。種子の保存や交換をさらに制限するものとして、農民はUPOV1991を恐れていたからだ。

多くのアジア諸国では、農民が種子を保存し、育成し、交換する自由は、現行法によってすでに阻害されている。インドの農民たちは、農民の種子の交換を制限する「植物品種および農民の権利保護法 2001」に長きにわたり抵抗してきた。中国では、2014年以来、全国的な農民の種子ネットワークが、種子法を農民の懸念をより反映させたものに変えるよう活動している。彼らが提案している改訂内容は、商業的なライセンスがなくても従来の種子を売ったり交換する農民の権利を守る要求を含んでいる。彼らはまた種子を栽培したり種子を選択する際の農民組織の権利への理解も求めている。

気候変動という大きな圧力のもとで、農民が彼らの土地にてより多くの多様性を必要とするとき、RCEPが種子の保存や交換を制限することは、明白である。さらに、もし農民が特許を持つ企業から購入することでしか合法的に種子を得ることができず、次の季節のために種子を保存する権利が制限あるいは禁止されるのであれば、農民は外部からの供給へより依存することになり、生産コスト増加にもつながる。RCEPに反対する人びとは、貿易協定が現在の3倍もの種子の価格を農民に強いると指摘している。

UPOV 1991条約は、さらに2つの方向で農民の種子の私有化を可能にする。まず、企業と育種機関は農民から種子を入手し、それを育成し、安定化あるいは均質化のための選定を行い、そしてその後、彼らがその種子を「発見した」として権利を主張する。第二に、UPOV1991条約は、1種類の種子に与えられる知的所有権は、「類似した」種類の種子にも及ぶことを規定する。ここには、農民が持つ種子も容易に含むことができる。

RCEPによって、農民はさらに厳しい制裁を科せられる可能性がある。インドネシアなどの国では、既存の植物品種保護法は、種子を育てたり交換した農民に対して、すでに重い制裁を科しているが、RCEPを通してさらに処罰するという方向へ進めば、単に種子を保存し、育てるという長年の実践をしているだけの農民たちが有罪となってしまう。

★緊急行動が求められている!

RCEPのような貿易協定では、種子の独占権を企業に与えるべきではなく、農民が種子を保存することを妨げてはならない。また遺伝子組み換え作物を促進すべきではない。しかし、これらが協定推進者たちのやっていることなのだ。これらの規定を交渉内容から取り除くだけでは不十分である。なぜなら、これらの貿易協定は本質的に、企業や政治エリートのビジネス取引を容易にする方向に偏っているからだ。RCEPTPPへの対応、あるいはTPPを相殺するための地政学的なツールでもあるが、地元コミュニティの利益を何ら促進させることはない。私たちは、交渉テキストを見ることすら許されていないのだ!

RCEPは、早ければ20168月にラオスにて署名される可能性がある。私たちは、RCEPがアジアの農民と食料主権にとってどのような意味があるのか、関心を喚起するための活動を早急に進める必要がある。私たちはまた、農民組合や先住民族組織、食の権利に関する活動家に対して、医薬品アクセス問題や電子上の権利についてのキャンペーンを行う人たち、漁民グループや小売業者などの他のセクターからなる勢力に加わってもらうよう支援しなければならない。数十億の人びとの生命と生業を危険にさらそうとしているRCEPのような貿易交渉を止めさせようとするなら、このような共同が必要である。

Going further

- Chee Yoke Heong, “Opposition mounts against regional trade pact threatening human rights”, Third World Resurgence, Nº 298/299, June/July 2015, Third World Network, http://www.twn.my/title2/resurgence/2015/298-299/econ1.htm

- Public Citizen and Third World Network, “International Convention for the Protection of New Varieties of Plants 1991 (UPOV 1991)”, TPP expert analysis, WikiLeaks, 9 October 2015, https://wikileaks.org/tpp-ip3/upov/page-1.html

- GRAIN, “UPOV 91 and other seed laws: a basic primer on how companies intend to control and monopolise seeds”, 21 October 2015, https://www.grain.org/e/5314

- GRAIN, “Trade agreements privatising biodiversity”, February 2016, Available from: https://www.grain.org/article/entries/5070-trade-deals-criminalise-farmers-seeds






2016年8月4日木曜日

国際NGO共同声明「市民社会組織は、RCEPにおける ISDS(投資家対国家紛争メカニズム)にNO!という

 7月末にマレーシア・クアラルンプールにて行われた「RCEPに対するNGO国際会合」に参加した団体が中心となり、下記の国際共同要請文をリリースしました。RCEP参加国から93団体が署名。もちろんPARCも署名しています。

  RCEPには知的財産、ISDSなど様々な問題がありますが、日本ではほとんど理解されていません。TPP同様、PARCでは今後RCEPに対するウォッチとロビイングを強化していきます。ぜひご覧ください。

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市民社会組織は、RCEPにおける 
ISDS(投資家対国家紛争メカニズム)にNO!という 

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 東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、16カ国*によって秘密裏に交渉されており、リークされた文書によると、RCEP協定の「投資章」には、外国投資家が国際法廷に政府を提訴することを認める提案が含まれている。

 これらの投資家による訴訟は、莫大な損害賠償のためである。もしこの提案が受け入れられれば、投資家対国家紛争メカニズム(ISDS)によって、外国投資家がRCEP参加国政府を訴えることが可能となる。仮に各国政府が、公共の利益の追求という理由で新たな法律/政策の導入・変更をしたとしても、それが投資家にとって「利益を損ねた」とみなされれば、投資家は政府を訴えることができるのである。

 過去のISDS訴訟の事例では、公衆衛生や環境、税制、金融規制、その他数多くの法律が提訴の対象となってきた。敗訴した政府は、一つのケースで400億ドルもの賠償金を投資家に支払わなければならいこともあった。このような額は、支払い可能な国の政府であっても非常に大きな負担となる。加えてRCEPにはカンボジア、ラオス、ミャンマーという後発開発途上国(LDC)が含まれており、これらの国が外国投資家に多額の賠償金を支払うことは大変な重荷である。

 これまでISDS訴訟は、696件あり107カ国が提訴されてきた。その数は年々増加しており、最も多くのケースが2015年に起こされている。広く投資家の権利を拡大し、規制を課す政府の能力を制限するこれらの訴訟は、多くの先進国および発展途上国の政府が、二国間投資協定(BITs)や二国間自由貿易協定(FTA)の投資章で、ISDSを含む投資家の保護規定に対する姿勢を見直す原因となっている。

 例えば、RCEP国だけで:

• インド及びインドネシアは、二国間投資協定から撤退している
• シンガポールの司法長官とオーストラリアの最高裁判所長官は、ISDSに対する懸念を表明している。そして、
• ニュージーランド最高裁判所長官国内は、国内法廷の決定に基づく人権規定さえもISDSによって提訴されかねないことを指摘している

 RCEP参加国以外でも、ISDSに対して以下のような反対がある:

• 南アフリカとエクアドルのような国々は二国間投資協定から撤退している
• ドイツの経済大臣は、米国とのヨーロッパのFTA交渉においてISDSに反対している
• オランダ、フランス。オーストリア議会は、カナダおよび米国と彼らのFTA交渉において、ISDSに反対している。そして、
• 米国のすべての州議会は、いかなる協定においてもISDSに反対している

 様々な国連の人権機関もまた、ISDSに対する深刻な懸念を表明している。国連特別人権専門家10人は、ISDSの事例は、「多くの国家の規制を課す機能や、公共の目的のもと立法する能力は、危険にさらされている」ことを明らかにしており、政府の委縮効果が見られる、と指摘している。そして専門家たちは、RCEPのようなFTAの交渉において、交渉中の条文テキストが発表されるべきであり、交渉が市民社会を含む利害関係者の参加を伴う透明性に基づいてなされるべきであることを提言している。

 RCEP閣僚会合は2016年8月5日からラオスで開催される。ここでは交渉で難航している分野を解決することが目標とされている。

 RCEPに参加する各国内・地域レベルの95の市民社会組織(下記リスト参照)は、RCEP交渉参加国に対して、同協定からISDSを取り除くことを強く求める。

*RCEP参加国:ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、オーストラリア、中国、インド、日本、韓国、ニュージーランド 

【署名団体・国(地域)】

1. GRAIN Global
2. Third World Network Global
3. Transnational Institute (TNI) Global
4. World Federation of Public Health Associations Global
5. LDC Watch
6. Asia Pacific Forum on Women, Law & Development (APWLD) Global Asia & Pacific
7. Public Services International Asia & Pacific Asia & Pacific
8. Southeast Asia Tobacco Control Alliance Asia & Pacific
9. The Building and Wood Workers' International Asia-Pacific Asia & Pacific
10. Focus on the Global South Philippines, Thailand, India, Cambodia, Laos
11. Australian Fair Trade and Investment Network Australia
12. Australian Services Union Australia
13. The Grail Global Justice Network Australia
14. People's Health Movement Australia
15. Public Health Association of Australia
16. New South Wales Nurses & Midwives' Association Australia
17. Cambodian Grassroots Cross-sector Network Cambodia
18. SILAKA Cambodia
19. Social Action for Change Cambodia
20. The Messenger Band Cambodia
21. Women's Network for Unity Cambodia
22. Worker's Information Center Cambodia
23. All India Drug Action Network India
24. Alliance for Sustainable and Holistic Agriculture (ASHA) India
25. Delhi Network of Positive People India
26. Food Sovereignty Alliance India
27. Forum Against FTAs India
28. India FDI Watch India
29. Indian Social Action Forum - INSAF India
30. Initiative for Health & Equity in Society India
31. International Treatment Preparedness Coalition (ITPC) -South Asia India
32. Sunray Harvesters India
33. Thanal India
34. The Centre for Internet and Society India
35. Toxics Watch Alliance (TWA) India
36. Ahimsa Society Indonesia
37. Aliansi Masyarakat Sipil Untuk Perempuan Politik (ANSIPOL) Indonesia
38. Aliansi Nasional Bhineka Tunggal Ika (ANBTI) Indonesia
39. Aliansi Petani Indonesia Indonesia
40. Bina Desa Indonesia
41. Creata Indonesia
42. Forhati Jatim Indonesia
43. Himpunan Wanita Disabilitas Indonesia (HWDI) Indonesia
44. IHCS (Indonesian Human Rights Committee for Social Justice) Indonesia
45. Indonesia AIDS Coalition Indonesia
46. Indonesia for Global Justice (IGJ) Indonesia
47. Jaringan Advokasi Tambang (JATAM) Indonesia
48. Koalisi Rakyat Untuk Hak Atas Air (KRuHA) Indonesia
49. Konsorsium Pembaruan Agraria (KPA) Indonesia
50. Maju Perempuan Indonesia (MPI) Indonesia
51. Pengembangan Inisiatif dan Advokasi Rakyat (PIAR) NTT Indonesia
52. Pengurus Wilayah Lembaga Kajian dan Pengembangan Sumberdaya Manusia Nahdlatul Ulama (PW LAKPESDAM NU DKI) Indonesia
53. Sawit Watch Indonesia
54. Serikat Petani Indonesia (SPI) (LVC Indonesia) Indonesia
55. Solidaritas Perempuan (Women's Solidarity for Human Rights) Indonesia
56. Southeast Asia Freedom of Expression Network Indonesia
57. Yogya Interfaith Forum Indonesia
58. Japan Family Farmers Movement Japan
59. Pacific Asia Resource Center (PARC) Japan
60. Jaringan Rakyat Tertindas (JERIT) Malaysia
61. Malaysian Council for Tobacco Control (MCTC) Malaysia
62. Malaysian Women's Action for Tobacco Control & Health (MyWATCH) Malaysia
63. Penang Research Center in Socio Economy (PReCISE) Malaysia
64. Persatuan Kesedaran Komuniti Selangor (Empower Malaysia) Malaysia
65. Positive Malaysian Treatment Access & Advocacy Group (MTAAG+) Malaysia
66. Primary Care Doctors Organisation Malaysia (PCDOM) Malaysia
67. NGO Gender Group Myanmar
68. Glocal Solutions Ltd New Zealand
69. Doctors for Healthy Trade New Zealand
70. It's Our Future Aotearoa New Zealand New Zealand
71. MANA Movement of the People New Zealand
72. New Zealand Council of Trade Unions New Zealand
73. New Zealand Public Service Association New Zealand
74. New Zealand Tertiary Education Union New Zealand
75. Ngai Tai Iwi Authority New Zealand
76. Public Health Association
77. New Zealand Public Service Association New Zealand
78. Alyansa Tigil MIna (Alliance Against Mining) Philippines
79. GABRIELA Alliance of Filipino Women Philippines
80. IBON Foundation Philippines
81. Initiatives for Dialogue and Empowerment through Alternative Legal Services (IDEALS) Philippines
82. Women's Legal and Human Rights Bureau (WLB), Inc. Philippines
83. Association of Physicians for Humanism Republic of Korea
84. IPLeft Republic of Korea
85. Knowledge Commune Republic of Korea
86. Korean Federation of Medical Groups for Health Rights, KFHR Republic of Korea
87. Korean Pharmacists for Democratic Society, KPDS Republic of Korea
88. Trade & Democracy Institute Republic of Korea
89. Trade Commission of MINBYUN-Lawyers for a Democratic Society Republic of Korea
90. Assembly of the Poor Thailand
91. Foundation for Women Thailand
92. FTA Watch Thailand
93. Indigenous Women's Network of Thailand Thailand
94. Thai Poor Act Thailand
95. Vietnam Network of People living with HIV Vietnam

Individual Signatories Country
1. Andi Yuliani Paris Indonesia
2. Athea Sarastiani Indonesia
3. Chairunnisa Yusuf Indonesia
4. Hendrik Siregar Indonesia
5. Ida Fauziyah Indonesia
6. Indah Suksmaningsih Indonesia
7. Irma Suryani Chaniago Indonesia
8. Irmawaty Habie Indonesia
9. Lena Maryana Mukti Indonesia
10. Luluk Hamidah Indonesia
11. Maeda Yoppy Indonesia
12. Maria Goreti Indonesia
13. Maulani A Rotinsulu Indonesia
14. Melani Leimena Suharli Indonesia
15. Nia Sjarifudin Nidalia Djohansyah Indonesia
16. Nihayatul Wafiroh Indonesia
17. Ratu Dian Hatifah Indonesia
18. Sarah Lery Mboeik Indonesia
19. Sulistyowati Irianto Indonesia
20. Sumarjati Arjoso Indonesia
21. Tumbu Saraswati Indonesia
22. Biswajit Dhar India
23. Gajanan Wakankar India
24. Vu Ngoc Binh Vietnam